GMブログからの移行記事

[TRPG]答えはシナリオの中にある

 市販のシナリオを使って遊んでいると、PCの行動によって、シナリオに書かれていない想定外の状況が発生してしまい、あたふたする初心者GMがいます。その後の対応は、巧く誘導してシナリオのイベントに近づけたり、個別に対応して柔軟に進めたりと、様々ですね。

そんな彼らに対して、周囲が「既成のシナリオでも自分なりにカスタマイズしなさい」とか「沢山アニメや漫画、映画、小説などに触れて、返しのパターンを身につけなさい」といったアドバイスをしているのを、よく耳にします。

 至極もっともなアドバイスですけれど、プレイ現場で今まさに混乱をきたしている初心者を相手にした場合、それは即応力を与える言葉にはなり得ませんね。むしろ、説教と受け取られて萎縮させる可能性がありそうです。

 私がアドバイスするなら、まず、休憩なり何なり、落ち着く時間を与えて、「何だったら、皆で考えましょう」と、参加者とのすり合わせを提案します。その上で、初心者が無理に新しい発想を捻り出そうとしても時間の無駄なので、小休止の時間を利用して「GMは手もとのシナリオを読みなおしてみてください」と言います。

わかったつもり 読解力がつかない本当の原因 (光文社新書)

わかったつもり 読解力がつかない本当の原因 (光文社新書)

 宮城教育大学の西林克彦教授は、著書「わかったつもり 読解力がつかない本当の原因」で、文章理解の障害に「わかったつもり」があると述べています。「わかったつもり」は「わかった」状態のひとつなので、それ以降の理解を妨害します。

 市販のシナリオは読み易いですから、読んで「わからない」ことは無いでしょう。けれども、ただシナリオを「わかった」だけでは、PCの行動によって、シナリオに書かれていない想定外の状況が発生した場合に、シナリオにそった対応を考えることはできません。対応できないなら「わかったつもり」でしかないのです。

 「よりわかる」ためには、文章の部分間の関連を理解する必要があります。TRPGのシナリオに例えるなら、背景情報等の設定と、イベントやデータの関連を理解する必要があるわけです。シナリオを読むだけではなく、より深く、シナリオの文脈まで読み解く行為です。

 そうしてシナリオが「よりわかる」と、様々なPCの行動に、「このNPCならこう動く」「このイベントはこう変化する」と、おのずと対応できるようになります。対応の根拠は、シナリオから見つけることができます。

 逆に、市販のシナリオを読んで「わかった」だけでは、様々なPCの行動に、「このNPCならこう動く」「このイベントはこう変化する」と、柔軟に対応できるほどの因果関係を構築できません。一通り読んで、とりあえずプレイできる「わかった」状態では、まだ読みが浅いのです。

 ですから、そういった「わかったつもり」の人は、遅かれ早かれ、結局、自分なりのカスタマイズや、既存作品の返しのパターンに頼ることになります。が、それでは対応の根拠が、シナリオに拠りません。安易に自分の引き出しを使っているだけです。市販のシナリオを活用できているとは言いがたいですね。

 まず何より、シナリオを読んで「よりわかる」ことが先決でしょう。シナリオに書かれていないPCの行動に対する答えは、他の何処でもない、シナリオの文脈の中にこそ、あるのですから。

 テクニックと称して、自分なりのカスタマイズや、既存作品の返しのパターンに拠り、自分の引き出しから答えを引っ張り出してくることの多かった私は、自らの読解力をもってシナリオと向き合い、シナリオを使いこなす努力を怠りがちだったのかも知れない・・・と、自戒しつつ「わかったつもり 読解力がつかない本当の原因」を読んでおりました。

 もちろん、自分がシナリオを「わかったつもり」になっていないか確認した上で、自分なりのカスタマイズや、既存作品の返しのパターンを使うことは、有効な手段だと考えます。けれども、深く読めていない「わかったつもり」のまま、自分の引き出しから答えを引っ張り出してくる行為は、一見して高等なテクニックのようですが、実はずぼらな行ないですよね。シナリオを活用できていません。なのに「どんなシナリオでも使いこなせる俺様カコイイ!」と舞い上がることもしばしば(笑)。嗚呼、壮絶な勘違い。

 自分の引き出しを使う前に、そして、シナリオを批判する前にも、「私は本当に、このシナリオを読めているのか?」「私は本当に、このシナリオを使いこなせているのか?」と問うことから始めたいと思います。

 もっとも基本的な、シナリオを深く読む行為が、案外おざなりになりがちな今日この頃。どうでしょう。貴方は本当に、安易に自分の引き出しを使わず、市販のシナリオを活用できている、と言えますか?