ひと夏×十数年の経験値

 長くなるし、あんまし卓ゲーと関係ないが愚痴らせてくれ

 3日の文化の日、俺は近所のホビーショップに出かけたんだ。勿論一人さ。

 で、ボヘーっとガンプラを眺めてた俺は、ふいに視線を感じそちらの方へ向くってゆうとだ。そこには五年程ご無沙汰の旧友の姿があるじゃねーか

 俺と奴とは小学時代からの知り合いで、中学高校と一緒に赤い箱青い箱の大冒険を繰り広げた間柄だ。週に一度、酷い時は毎日、俺らはダンジョンへ荒野へ海へ出かけては、時には死体を、時には山ほどのお宝を抱えて帰ってきたもんだ。まさに気分は戦友、といった感じ。あの頃はお互いに同じモノを見ていた

 高校卒業と共にお互いの進路が別れた事もあり、冒険の日々は終わりを告げる。俺は新たに戦場を見つけ今でも冒険を続けたが、奴はそのまま冒険の生活からは足を洗った。その後もしばらくは電源ゲーの方で路上格闘に精を出したが、いつしかそれも辞め、今度は本当にお互いに疎遠となっていった

 偶然の再会にお互いに驚いたが、俺が特に驚いたのはヤツの傍らに一人の可愛らしい女性の姿があった事だ。年は20代前半のはっきり言って店の雰囲気とは不似合いなオシャレなコ。でもケバいワケじゃなくって、むしろ落ち着いたお嬢さん。なにより眼鏡がとても似合う知的美人。

 『オーケー、落ち着け俺。三十路のヲタがあんな女性と一緒なんて何かワケがあるに違いない!  あー、そうだ、同伴出勤だそうだそうだ。でもこんなトコ連れてくるなんてセンスねー』 そう思った俺の気配を察したヤツからの思いがけない先制攻撃(当方立ちすくみ状態)

 「あ、これカミさん。俺、結婚したんだ」

 『カミサン?ナニソレ?クエルノ?(そりゃ別の意味で喰ってるだろうけどさ)』ってパニくる俺

 俺は色々言いたかったさ

 『今も俺はダンジョンに潜ってるぜ』

 『知ってるか?今は新しいD&Dが出てるんだぜ?』

 『しかも、昔よりエキサイティングなんだぜ!!』

 『毎月出費でヒーヒー言ってるけどな(笑)』

 でも隣りのカミさんと仲睦まじく手を繋いだヤツにそれを言うのはひどく野暮な気がした。俺は当り障りの無い言葉と「幸せそうじゃん!」と言う事しかできなかった。

 「あ、知ってるか?〇〇も結婚したってさ」

 〇〇は俺とヤツの共通の知り合いで、同じ卓を囲んだ戦友の一人だ

 「へー、そうなんだ」

 そんな返ししかできなかった。

 「それと(俺の)オヤジさんが心配してたぞ、全然連絡よこさないから元気でいるかって」

 そういや随分実家に戻ってないなぁ。戻れるワケないじゃん。オヤジ、ゴメンな。孫の顔は一生見せられそうにないや。

 ヤツと別れた俺は逃げるように店を後にする

 いつから、俺とヤツは違うものを見るようになったんだろう。やっぱ30過ぎても「やれドラゴンがファイヤーボールが」って言ってる俺は相当イタいんだろうな。それでも俺は冒険が辞めれそうにない。

 もう病気だ 死んでも治らない、不治の病だ。俺はまだあの頃見たモノが見えるんだ。

 今の俺の気持ちを一言で表すなら『風よ。龍に届いているか