失敗談

 ウチらは高校の部活でTRPGをしていて、当時高一だったが、メンツは中学から付き合いがあって、昔からTRPGしていたので、皆の性格とかは知り尽くしているつもりだったし、TRPGをやるうえでの最低限の良識と常識くらい持ち合わせていると思っていた・・・。そう、アノ人があんな事をしでかすまでは・・・

 その時のGMは、ちょっと前にGM初体験を済ませたばかりの同級生K君。システムはSW、来た依頼は「妻が殺されたので復讐がしたい」というもの。「復讐」っつってるけど要するに「犯人見付けて連れてこい」ってことでしょう。皆普通に依頼受けることにしたんだが、一人だけ、女エルフPCだけは「受けたくない」の一点張り。GM経験浅い人に対しては「なんだかんだ言いつつ依頼受ける」が普通だと思うのだが・・・。

 「明日までに受けるか決めて下さい」と依頼人が言うのでそれまでひたすら女エルフを説得。しかし女エルフは動きません。考えを曲げません。やがて次の日になります。

 説得だけでリアル時間で30分以上かかり、もはやPC同士の説得でなく「プレイヤー間の話し合い」になってしまい、それでも主張を曲げないPLに疲れきった俺達は、いつしか思考を止め、何とかして依頼を受けさせよう(GMにセッション失敗という苦い思いをしてもらいたくないから)という思いから「依頼を受けないなら女エルフさらっちまえ」という考えにいたる。

 ・・・ええ。困ったちゃんは俺らですよ・・・・皆ホントにダレきってて、思考停止してたんです・・・しかもその時、入部希望者が見学に来てて、何とかセッション成功させようと必死だったんです・・・・

 翌朝、女エルフの寝てる寝室の扉をシーフが鍵開け、スリープで眠らせ依頼者の村に着いてから魔法で起こす。これで「依頼はもう受けました」という既製事実を作ればOK!ヒャッホゥ! 困ったちゃんです。俺らが困ったちゃんです。

 でも、ホントにその時は「ここで失敗したらK君はGMやらなくなっちゃうんじゃないか」「セッションを失敗させたくない」「皆で依頼受けて皆で解決したい」「入部希望者にTRPGが面白いと思ってもらいたい」という思いが強くて・・・とにかく必死だったんですよ。

 無理矢理連れてこられた女エルフさんはそれでも「依頼は受けるわ。でも私は何もしないからね。戦闘になっても何もしないから」とキレ気味。まあ仕方ないか。

 とりあえず情報収集していくと、殺された妻は善良なラミアだったことがわかり、さらに妻が死ぬ前にファリスの神官戦士らしき男が目撃されていた。「狂信的ファリス神官がラミアの正体を見破り、邪悪と自己判断し切り捨てたのではないか」という推理を立て、神官の足取りを追い、山賊と戦う神官を発見。彼は、命乞いをする山賊を容赦なく切り捨てていた。神官を止めようとするが「私に逆らうとは、貴方達も邪悪なのですね」と言われ戦闘。もちろんこれまでのあいだ、女エルフは一言も発してないっつーかPLが関係無い本読み耽ってた。

 戦闘の末、神官を気絶させ、持ち物を調べると怪しい魔法アイテムを発見。ファリスの聖印が刻まれたペンダントで、「身につけた者はファリスを信仰し、プリースト技能1レベルを一時的に取得するが、ちょっとでも悪さをした者や自分に逆らう者を全て邪悪と判断し、慈悲もかけず容赦無く殺すという歪んだ信仰を持ってしまう」というアイテムだった。

 危ないのでペンダントは破壊。依頼人を連れて来て、「復讐したいならしなさいな」と突き出すが、依頼人は「こいつを殺しても・・・・妻は帰って来ない・・・」と剣を落とす。GMはこういうちょっとかっこいい演出をしたかったんだろうけど、ダレきってた我々に感動してる余裕は無かったです。

 それでも俺はなんとか場を盛り上げようと、かっこいい台詞を言ったりしていると、女エルフは「復讐したいとか言って結局口だけじゃない。人間て馬鹿ね。私はバード技能で今回の事を歌にするわ。人間がどれだけ醜いかを知らしめる歌を、エルフ語で」と毒づいてシナリオは終了。皆萎えまくり。

 このことでK君はGMをやってく自信を無くし、SWのGMをやることは無くなりました。確かに「さらう」は困ったちゃんだったけれど、GM初心者のシナリオで依頼受けないってどうなんでしょう。しかも見学者がいる前で。配慮足りなさすぎじゃないか。ちなみにその後、PLに「なんで依頼受けなかったの?」と聞くと、「私のキャラは、復讐という言葉が嫌いで、ああいう依頼を受けるのに少し抵抗があった」と言われました。あれは「少し」なのか・・・・